LGBTQの理解があるいまこそ、ホイットニーの映画を。

2022.12.23

ホイットニー・ヒューストンを描いた映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』が公開になった。ホイットニーといえば、ちょうど4年にドキュメンタリー映画『ホイットニー 〜オールウェイズ・ラヴ・ユー〜』が公開され、その赤裸々な内容に彼女の母親がクレームをつけたほど衝撃的で、驚かされた。

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グラミー賞6冠、400を超える受賞歴はギネス世界記録に認定されるなど、大歌手のホイットニー・ヒューストン(1963-2012)

しかし、今作はどうだろう。たとえ歌手ホイットニーの曲や偉業を知らなくても、ある女性の“自分の姿勢を貫いたかっこいい生き様を知る映画”として鑑賞することができるのではないだろうか。LGBTQへの理解が進んできた時代だからこそ、学生時代からのソウルメイトの存在を大切にしながら、人種や性別、国籍などに囚われない生き方、すなわちそういった歌を全世界へ歌っていきたいとする彼女の生き方がクローズアップされている。

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『ボヘミアン・ラプソディ』の脚本家と『ハリエット』の監督がタッグ

脚本を担当したのは、クイーンのフレディ・マーキュリーの生涯を描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)のアンソニー・マクカーテン。監督のケイシー・レモンズは、女優として『羊たちの沈黙』(1991年)や『キャンディマン』(1992年)などに出演しているが、監督としては自分と同じアフリカ系アメリカ人の活動家ハリエット・タブマンを描いた『ハリエット』(2019年)を担当したほど、黒人女性に特に理解がある。従って、トップ・シンガーとしてのホイットニー・ヒューストンの歌を劇中で堪能できるうえに、自分の人生と闘ってきたホイットニーから背中を押してもらえるような場面にも多く遭遇できるのだ。

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(写真右から)ホイットニー(ナオミ・アッキー)のことを愛し続けたソウルメイト、ロビン・クロフォード(ナフッサ・ウィリアムズ)。

正直なことを言うと、ホイットニーがチャートを賑わせていた頃、自分はそれほど彼女には関心はなく、同じR&Bの女性シンガーだったら断然ジャネット・ジャクソンの方が好きだった。後者の方が父親を含めた彼女を取り巻く状況と闘っていたのが顕著だったし、曲やダンスも自分にはとても魅力的だった。ホイットニーに対しては、母親や叔母が名シンガーという音楽一家で育ったことから、生まれながらのセレブとされ、他のR&B系シンガーよりは恵まれている気がしたし、当時は楽曲にもそこまで惹かれなかった。

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ボビー・ブラウン(アシュトン・サンダース)との超人気スター同士の結婚は大ニュースとなった。

ただ、映画『ボディガード』はとても好きでサウンドトラックの解説を書かせていただいたし、3回は観た気がする。しかし、念願だった女優としても脚光を浴びるようになった彼女は、一方でボビー・ブラウンと結婚してからは、もちろん理由はそれだけではないだろうが、それまでの栄光が見る影もないほど変貌していく。白人音楽のポップス性が強いことから“黒人らしさがない”と揶揄されたこともあり、名家の育ちだからこそ、表にできずに苦労したことが多々あったのだと、いまでは想像できる。

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ホイットニーの歌声が降臨するシーンに圧倒される

この映画は、冒頭に書いたようにホイットニーを輝かせる。演じるナオミ・アッキーは、スーパーボウルで着たトラックスーツであったり、南アフリカ共和国のコンサートで「I Will Always Love You」を歌うときに身につけたドレスであったり、この映画のハイライトとなるアメリカン・ミュージック・アワードで着用した袖にクリスタルが散りばめられたガウンであったり、名シーンで着ていた衣裳を再現し、纏ってステージに立つ。ウィッグも演じる年齢に向けて30以上も用意したそうだ。

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1991年のスーパーボウルは、「普段の自分で歌いたい」と、トラックスーツで国歌斉唱。

肝心の歌声はどうだろう。一部明かしてしまうが、ナオミ・アッキーの歌唱力も十分に素晴らしいが、そこにホイットニー自身の声が舞い降りてきて、アッキーの歌に加わっているのだ。注目して聴いてほしいシーンの一つは、ホイットニーが突然ステージで歌うことになる「Greatest Love of All」。レモンズ監督は、緊張した様子で歌い出したアッキーが次第に歌に自分の声と自信を見つけたあたりで、ホイットニー本人のオリジナル録音の歌に切り替えたという。「その瞬間から、この映画の最後まで、すべてがホイットニーの世界なんです」とレモンズは確信している。

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ホイットニーの天性の声を発揮した“不可能なメドレー(Impossible Medley)のシーンは、なかでも非常に丁寧に描かれている。

このようなマジックはいくつか存在し、アメリカン・ミュージック・アワードで披露した“不可能なメドレー(Impossible Medley)”にいたっては、当時の番組からステレオ音源をわざわざ入手。それを映画用にリミックスし直し、ナオミ・アッキーの口の動かし方も意識させ、ホイットニーの歌が彼女の口から発せられるように工夫されたという。

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父親や、ソウルメイトのロビンの描きなどは母親シシーの意向を反映?

その他にも彼女の才能を見出し、常にそばで応援してきたプロデューサー、クライヴ・デイヴィス(スタンリー・トゥッチ)は、実際に本人に会ったことがあるが、とても似ているように感じたし、当時のファッション含めて細部にわたって楽しめる内容になっている。母親シシー・ヒューストンと父親ジョン・ヒューストンの描き方がかなり極端なので、今回は母親の意向を強く汲んだのかな、と感じるが、そう思うと、娘のソウルメイト、ロビンの存在が忠実に描かれていることに共感を覚える。このあたりなど、あとは映画を観ていただければと思う。

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娘のことを常に応援していた歌手でもある母シシー・ヒューストン(タマラ・チュニー)

映画の中で披露されるのは、メドレーを1曲と数えるならば全22曲。自分で作詞はしていないが、歌詞にどのくらいこだわっていたかは、映画を見れば強く伝わってくるし、その圧倒的な歌唱力をスクリーンから浴びることができるのが嬉しい。何よりひとりの人間として誠実に生きていこうとする彼女の姿は、多く人の心にパワーを与えてくれるはずだ。私はこの映画で魅せられてすっかり彼女のファンになってしまった。

『ジャパニーズ・シングル・コレクション–グレイテスト・ヒッツ–』
CD 2枚(全35曲)+DVD 1枚(全33曲) 4,400円(ソニー・ミュージックレーベルズ)

 

 

『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
●監督/ケイシー・レモンズ
●出演/ナオミ・アッキー、スタンリー・トゥッチほか
●2022年、アメリカ映画
●144分、R12
●配給/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
●全国で公開中
www.whitney-movie.jp

*To Be Continued

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